過去 – 経歴
――― 建築を学び、日本で働き、AKIYA2.0を立ち上げるまでの経歴について教えてください。
シンガポール工科デザイン大学(SUTD)で建築を学び、建築学の修士号を取得しました。在学中には、日本で行われた交換留学のスタジオプログラムに参加する機会があり、人口の高齢化によって増加する伝統的な空き家や、日本の地方における建物や空間を改善する取り組みについて学びました。これが、私と日本、そして空き家との最初の接点でした。建築を学ぶ人にとって、日本は非常に魅力的な学びの場だと思います。職人技やプロポーション、素材、施工に対する日本独自の考え方は、世界中の建築家に影響を与えています。また、日本はプリツカー賞、いわば「建築界のノーベル賞」とも呼ばれる賞の受賞者を数多く輩出しており、日本で学び、働くことは多くの若い建築家にとって憧れでもあります。
交換留学では、日本を代表するプリツカー賞受賞建築家の一人である妹島和世氏から直接学ぶ機会にも恵まれました。スタジオには日本とシンガポールの学生が参加していましたが、私は日本語を話すことができたため、自然と両グループのコミュニケーションを橋渡しする役割を担うようになりました。この経験を通じて、建築とは建物をデザインすることだけではなく、人と協力し、相手を理解することも同じくらい重要なのだと学びました。
大学院を修了した後は日本に残ることを決め、伊東豊雄氏の建築系譜にもつながる末光弘和氏の設計事務所、SUEP.に入社しました。そこで約4年間、日本、台湾、シンガポールにまたがるさまざまなプロジェクトに携わりました。
仕事は決して楽なものではありませんでした。長時間労働や週6日勤務も珍しくなく、事務所で何度徹夜したか分からないほどです。しかし、その経験を通じて、日本の建築業界で求められる規律や精度、そしてものづくりに対する高い意識を身につけることができました。受賞歴のあるプロジェクトにも携わり、建築家としての技術的な基礎を築くと同時に、現在のデザインやビジネスに対する考え方にもつながる多くのことを学びました。
約4年間働いた後、次第に「自分自身で何かをつくりたい」という思いが強くなっていきました。一つひとつの新しい建物を設計することだけではなく、建築と経済、そして地域コミュニティがどのように交わるのかに、より強く興味を持つようになったのです。
そして、日本に来るきっかけとなった「伝統的な住宅」に、改めて向き合う機会も生まれました。新しい建物をつくるのではなく、すでに存在している日本の伝統的な住宅を活用し、そこに新しい価値を生み出す。その可能性に惹かれるようになりました。
それが、AKIYA2.0 Inc.を立ち上げる原点となりました。
現在 – サービス内容

――― 現在、AKIYA2.0ではどのような事業に取り組まれているのでしょうか?
日本の空き家問題は、一般的には「住まいの問題」として語られることが多いですが、私は本質的には「地域コミュニティの問題」だと考えています。人口減少が進み、若い世代が都市部へ移り住むことで、地方では「空き家」と呼ばれる住宅が増え、高齢化や地域経済の縮小も進んでいます。その一方で、こうした建物の中には、建築的にも美しく、文化的にも大きな価値を持つものが数多くあります。しかし、適切な維持管理が行われなければ、少しずつ劣化が進み、最終的には再生することが難しい状態になってしまいます。
私たちは、伝統的な住宅を再生することは、単に建築物を保存することではないと考えています。例えば、住宅のリノベーションが行われれば、地域の工務店や職人の仕事が生まれます。そこを訪れるゲストが地域の飲食店や商店を利用することで、周辺のビジネスにも経済的な効果が生まれます。また、購入したオーナーが何度もその地域を訪れるようになれば、投資先の地域コミュニティとのつながりも生まれていきます。
もちろん、一つの空き家を再生しただけで地域の衰退を解決できるわけではありません。しかし、こうした成功事例が一つ、また一つと積み重なっていけば、地域にとって意味のある変化につながっていくと考えています。
こうした広い視点が、AKIYA2.0の事業をつくる上での大きな考え方になっています。
単に不動産の売買だけに注力するのではなく、私たちは、物件探しから法的な手続き、リノベーションの管理、購入後の物件管理、そして将来的な事業運営まで、所有に関わるあらゆる段階を一貫してサポートしています。海外で家を購入することは、さまざまな手続きがあり、複雑になりがちです。私たちは、その一連のプロセスを分かりやすく、利用しやすいものにすることを目指しています。
海外で住宅を購入することは、言語や法律、文化の違いもあり、決して簡単なことではありません。だからこそ、私たちの役割は、その複雑なプロセスをできるだけ分かりやすく、安心して進められるものにすることだと考えています。
また、私たちのチーム自体も、そうした国際的な視点を大切にしています。これまでアジア、ヨーロッパ、北米、南米など、さまざまな国からインターンやメンバーを迎えてきました。共通しているのは、みんなが日本に強い関心を持っていることです。
日本のポップカルチャーをきっかけに日本を知る人も多いですが、実際に日本で過ごす中で、建築や職人技、そして地域コミュニティの魅力により深い関心を持つようになる人も少なくありません。
私たちは、そうした日本への興味や想いを持つ海外の人々と、日本の地域や建築、そしてそこに暮らす人々をつなぐことも、AKIYA2.0が担える大切な役割の一つだと考えています。
将来 – ビジョン
――― AKIYA2.0を通じて、これからどのような未来を実現したいと考えていますか?
よく「日本は観光客が多すぎて、オーバーツーリズムになっているのではないか」と聞かれます。しかし、私はこの問題は、一般的に考えられているよりも複雑だと考えています。日本の観光について語るとき、東京、京都、大阪などの都市部におけるオーバーツーリズムに注目が集まりがちです。もちろん、そうした課題は実際に存在しています。ただ、それは日本全体の一部に過ぎません。日本には、観光によって地域に必要な経済活動を生み出したいと考え、積極的に観光客を呼び込もうとしている都道府県も数多くあります。
地方では、新しい住民や投資、そして観光客を積極的に求めている地域があります。そこには素晴らしい建築や美しい景観、長い歴史があるにもかかわらず、日本国外ではまだほとんど知られていない場所も少なくありません。
私は、これからの持続可能な観光は、すでに大きな観光客の集中によって負担がかかっている場所にさらに人を集めるのではなく、こうした地方に目を向けていくことにあると考えています。
同時に、地域の活性化は責任を持って進めていかなければなりません。海外からの投資が増えることで、地域の文化やコミュニティのあり方が変わってしまうのではないか、という懸念があることも理解しています。そうした声は、真剣に受け止める必要があります。
一方で、私は「文化や建築を守ること」と「海外からの投資を受け入れること」は、必ずしも相反するものではないと考えています。適切に進めることができれば、海外の購入者が歴史的な建物の再生を支え、地域の事業者を支援し、地域社会の長期的な持続可能性に貢献することができます。そして、その地域ならではの文化や価値を尊重しながら、新たな人とのつながりを生み出すことも可能だと思っています。
建築は、これまでずっと「人がどのように暮らすのか」を形づくるものだったと思います。そしてAKIYA2.0の活動を通じて、建築を守るということは、同時に、その建物に意味を与えている地域コミュニティを守ることでもあるのだと実感するようになりました。
私たちの活動が成功したかどうかを、単純に「何軒の空き家を再生したか」という数字だけで測りたいとは思っていません。
むしろ、これまで忘れられていたかもしれない日本の地域に、より多くの人が投資し、訪れ、関心を持ち、大切にするようになったかどうか。そして、日本の小さな町や地域が、これから何世代にもわたって、暮らしがあり、文化があり、新しい機会が生まれる場所であり続けられるかどうか。
それこそが、AKIYA2.0を通じて私が実現したい未来です。

レスター 呉さんのプロフィール
シンガポール国籍。33歳。約10年にわたり日本で暮らし、建築・不動産分野で活動している。シンガポール工科デザイン大学(SUTD)で建築学修士号を取得。日本および台湾の受賞歴のある建築プロジェクトに携わった経験を持つ。英語・中国語・日本語の3言語を流暢に話す。
日本での経験を通じて、伝統的な建築物の再生や、建築と地域コミュニティの関係に強い関心を持つようになる。
2023年にAKIYA2.0を共同設立。海外からの購入者に向けて、日本の伝統的な古民家の購入からリノベーション、管理、運営までを一貫してサポートしている。AKIYA2.0では、責任ある海外投資によって、日本の伝統的な建築物を守り、地域コミュニティの持続につなげることを目指している。
現在は、建築・不動産・地域活性化が交わる領域で活動。「空き家は単なる不動産資産ではなく、その地域の建築的・社会的な営みを形づくる一部である」という考えのもと、空き家の再生と地域の持続可能性に取り組んでいる。
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