過去 – 経歴
―― これまでのキャリアについて教えてください。
私と日本との関係は、約9年前、慶應義塾大学への交換留学生として初めて来日したことから始まりました。当時すでに数年間、日本語や日本文化を学んでいましたが、実際に日本で生活する経験はまったく異なるものでした。多くのことが新鮮で、慣れない一方で非常に興味深く、強い印象を受ける期間となり、「もう一度日本に戻りたい」と思うようになりました。
その経験をきっかけに文部科学省の奨学金(MEXT)に応募し、再び来日して東京大学で学びを続けました。専門は言語学および異文化コミュニケーションで、文化間において意味やニュアンス、文脈がどのように理解に影響を与えるのかを研究していました。
卒業後はWPP傘下のEssenceMediacomに入社し、デジタルマーケティングに携わりました。主にグローバルの大手企業、特にテック企業のプロジェクトに関わり、複数のチャネルや市場にまたがるマーケティングの実務を経験しました。この経験を通じて、大規模なマーケティングがどのように設計・運用されているのかについて、基礎をしっかりと身につけることができました。
当初は、自分の学んできた分野とは少し離れているように感じていましたが、次第に両者が非常に密接に関係していることに気づきました。特に国際的な文脈におけるマーケティングは、本質的にコミュニケーションそのものであり、「どのように意味が解釈されるのか」「どのように信頼が構築されるのか」、そして「言葉や表現のわずかな違いがどのように認識を変えるのか」といった点が重要であると実感しました。
こうした経験を通じて、日本市場の独自性や、グローバル戦略がそのまま通用しない場面が多いことにも強く気づくようになりました。しかし、それを制約としてではなく、マーケティングを単なる実行ではなく「丁寧に適応させていくプロセス」として捉える機会だと考えるようになりました。
また並行して、Instagramを通じて日本での生活や旅行、文化的な体験、日常の出来事などを発信していました。この活動も重要な学びの場となり、コンテンツの作り方やオーディエンスの行動、ストーリーテリングについて、実践的な理解を深めることができました。
こうした複数の経験が重なり、最終的に5&5 Studiosの立ち上げにつながりました。戦略、文化理解、そして実行力を一体化したアプローチを実現するための取り組みとして、現在に至っています。
現在 – サービス内容

―― 5&5 Studiosではどのような支援を行っていますか?
5&5 Studios 株式会社では、海外ブランドの日本市場への参入および成長を支援しています。日本市場は、特にコミュニケーションや顧客認識の面において、他の多くの市場以上に丁寧でローカライズされたアプローチが求められるという考えのもと、事業を展開しています。
まず、ブランドが日本市場でどのようにポジショニングすべきかを定義することから始めます。ターゲットオーディエンスの特定やローカルの期待値の理解、そしてグローバルでの価値提案を日本市場において自然かつ共感される形に落とし込むことを行います。単なる言語の調整ではなく、異なる文化的文脈の中で「どのように伝わるか」「どのように解釈されるか」に重点を置いています。
その上で、Meta、Google、LINEなどのデジタルマーケティングチャネルに加え、ソーシャルメディア運用やインフルエンサーマーケティングの実行支援を行います。特にコンテンツに強い重点を置いており、各プラットフォームに適した、ローカルユーザーに自然に受け入れられる表現を重視しています。
また、目的に応じてマイクロインフルエンサーから大規模なインフルエンサーまで幅広く連携し、企画から制作、実行まで一貫して管理しています。目指すのは単なるリーチの拡大ではなく、信頼性の構築であり、ユーザーに無視されるのではなく、信頼されるコンテンツの創出です。
多くのケースにおいて、最大の課題は実行そのものではなく「アライメント」、すなわちグローバルチームと日本市場の現実とのギャップを埋めることにあります。そのため、言語だけでなく意図そのものを翻訳し、ブランドが日本でどのように認識されているのか、どのような調整が必要なのかをグローバル側に理解してもらう役割も担っています。
このようなブリッジとして機能することで、一貫性のある意思決定が可能となり、優れたグローバル戦略がローカル市場で効果を失うといった事態を防ぐことにつながります。
実際に、こうしたアプローチにより、1年半で売上を500万ユーロ以上に拡大した事例や、各チャネルにおけるパフォーマンス効率の改善を実現しながら、長期的なブランド構築を両立してきました。
最終的に私たちの役割は、グローバルな志とローカルの現実の間にあるギャップを埋め、日本市場における持続的な成長の基盤を築くことです。
将来 – ビジョン
―― 今後のビジョンについて教えてください。
今後、5&5 Studios 株式会社は、グローバルブランドと日本市場をつなぐ“架け橋”として成長していきたいと考えています。それは単なるマーケティングの実行支援にとどまらず、ブランドが日本をどのように理解し、どのように向き合うべきかという部分まで含めた、より本質的な支援です。
日本はしばしば「難しい市場」と言われますが、問題は市場の複雑さそのものではなく、その向き合い方にあると感じています。多くのブランドが日本をグローバル戦略の延長として捉え、他国でうまくいった施策が多少の調整で通用すると考えがちです。しかし実際には、コミュニケーションやトーン、文脈のわずかなズレが、ブランドの受け取られ方に大きな影響を与えます。
一方で、日本は正しく向き合うことで、ブランドそのものをより強くする市場でもあると考えています。品質や信頼、コミュニケーションに対する期待値が非常に高いため、日本市場に適応するプロセスを通じて、ブランドのポジショニングがより明確で洗練されたものになります。つまり、日本での成功は単に一つの市場を開拓することにとどまらず、ブランド全体をよりシャープにし、その価値を他市場にも波及させる可能性を持っています。
また個人的には、茶道を通じてお茶の世界をより深く探求しています。次第にそれを単なる文化体験ではなく、ひとつのコミュニケーションの形として捉えるようになりました。直接的な説明ではなく、所作や間、空気感といった繊細な要素によって意味が伝わるという考え方は、ブランドと人との関係性を考える上でも大きな影響を与えています。
その延長として、現在は抹茶ブランドの立ち上げにも取り組んでいます。これは文化的な側面とビジネスの両方から、これまでの考えをより実践的に探求する個人的なプロジェクトです。
今後は、戦略的思考と文化的理解を兼ね備えたチームやネットワークを構築していきたいと考えています。また、短期的な成果ではなく長期的な成長に価値を置く企業との連携にも関心があります。
こうした機会を通じて、既存の前提に疑問を持ち、日本市場に対して好奇心と敬意、そして意図を持って向き合うブランドやクリエイター、プロフェッショナルの方々と出会えることを期待しています。


Anna Silifonova さんのプロフィール
東京を拠点に海外ブランドの日本市場への参入および成長を支援するマーケティングエージェンシー「5&5 Studios」の創業者。ロシア出身で、7年以上日本に在住し、慶應義塾大学および東京大学で言語学と異文化コミュニケーションを専攻。グローバルなアイデアを日本市場に適した戦略へと落とし込むことを強みとし、マーケティングの専門性とコミュニケーションおよび文化的文脈への深い理解を掛け合わせた支援を行っている。また、Instagramを通じて日本での視点を発信し、旅行や文化、日常生活に関するコンテンツを展開している。
▼ 国籍
ロシア
▼ ホームタウン
ロシア、ソチ
▼ 大学
慶應義塾大学 ( 交換留学 ) / 東京大学
▼ 5&5 Studios 株式会社 ウェブサイト
https://www.5n5studios.com
▼ Instagram
https://www.instagram.com/anna_tabi_sabi