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グローバル起業家

Igor Prusa (イゴール・プルサ) 氏 – プラハ首都大学 / “Scandal in Japan” の著者 /

“Scandal in Japan" 著者

イゴール・プルシャは、チェコ出身の日本研究およびメディア研究の学者であり、現在はプラハのアンビス大学とメトロポリタン大学に所属。

研究関心は、日本の文化と社会、メディア・スキャンダル、大衆フィクションにおけるアンチヒーロー主義に及ぶ。研究成果は『Media, Culture & Society』や『Japan Focus』をはじめとする多くの学術誌に掲載されている。初の著書『Scandal in Japan: Transgression, Performance and Ritual』は、2024年にラウトレッジ社から刊行された。

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―― なぜ日本で学び、研究を続けようと思われたのですか?

私が日本で学び始めた理由はとても明確でした。学問的関心、語学力の発展、そして自分に与えられた機会、それらすべてが同じ方向を指していたのです。つまり、「日本のメディアと社会を外からではなく、内側から理解すること」でした。

パラツキー大学(チェコ・オロモウツ)で修士課程に在籍していた当時から、私は日本を抽象的な「文化」としてではなく、「生きたコミュニケーション体系」として捉えていました。専攻は日本語とドイツ語の言語学で、修士論文のテーマは「日本の広告」でした。そこでは、日本のメディア、商業的なイメージ、美意識、欲望、説得といった要素を、西洋の理論を通してではなく、日本独自の文化的論理の中で読み解こうと試みたのです。

この「メディア環境を通して日本を理解する」という初期の決断が、その後のキャリアを決定づけました。なぜなら、日本におけるメッセージの働き方を真に分析するには、実際に日本に身を置き、誰が、誰のために、どのような暗黙のルールや制度のもとで発信しているのかを理解する必要があると痛感したからです。

同時に、私は日本語を「趣味」ではなく「学術的な道具」として磨き続けました。2000年には全国日本語スピーチコンテストで優勝し、それは二つの意味を持ちました。第一に、私は日本語を「学ぶ」だけでなく「公の場で使える」レベルに達していたということ。第二に、日本の聴衆や機関が、私の言葉に耳を傾けてくれるようになったということです。この信頼が非常に重要でした。私は「観察者」ではなく「参加者」として発言できるようになったのです。

この実績が最初の大きな扉を開きました。文部科学省の奨学金(国費留学生制度)を得て、2002〜2003年に東京学芸大学で日本語・日本文化の特別研修を受けることになったのです。これは観光ではなく、日本の学術・社会環境で実際に機能するための国家的支援プログラムでした。この留学を境に、日本は「研究対象」ではなく「生活と仕事の現場」になりました。教授との対話、新聞や雑誌の読解、敬語や上下関係、そして「直接言わずに伝える」日本特有の表現法、そうした日常的な言語感覚を身につけていきました。特に「言葉にならない領域」をどう扱うかという点は、後のスキャンダル研究の核心にもつながっています。

その後の私のキャリアを見れば、「なぜ日本なのか?」という問いは、「このレベルの研究ができる場所は日本しかない」という確信へと変わっていきました。2009年にはプラハのカレル大学で博士号(メディア学)を取得し、論文テーマは「日本のメディアと社会」。日本を単なるケーススタディではなく、独自のメディア政治体系として扱いました。さらに2008年から再び文部科学省奨学金を得て、東京大学大学院学際情報学府(IT ASIA)に外国人研究生として入学し、最終的には博士課程に進みました。

学問と並行して、私はすでに日本社会の内部で職業経験を積んでいました。トヨタなどの産業・企業現場で、日英・日チェコ間の翻訳や通訳に従事したことで、日本の企業コミュニケーションにおける「言葉と意図の微妙なずれ」を聞き分ける耳を鍛えました。その後、東京都立大学で「現代日本」などの講義を担当し、研究者・教育者として日本の制度に関わるようになりました。

こうした「内側にいる経験」こそが、私の研究動機を説明しています。スキャンダル、謝罪、忠誠、そして制度の修復、それらを私は「理論」ではなく「実際に生きられている現象」として見てきたのです。

―― 現在の研究分野について教えてください。

私の専門分野は、日本におけるスキャンダル研究です。つまり、不正や不祥事がどのように暴かれ、演出され、道徳的に位置づけられ、そして社会的に処理されていくのかを分析しています。私はスキャンダルを単なる「悪行の露呈」としてではなく、あらかじめ役割と手順が定められた「構造化されたパフォーマンス」として捉えています。そこには謝罪という儀式や再統合への試みが組み込まれています。

この研究テーマは、東京大学での博士論文『戦後日本におけるスキャンダル、儀式、メディア』(2017年)に始まり、著書『Scandal in Japan: Transgression, Performance and Ritual』(2023年)として結実しました。さらに、企業スキャンダル(オリンパス事件)、政治スキャンダル(小沢一郎事件)、芸能スキャンダル(酒井法子事件)など、複数の査読付き論文を発表しています。

最近では、自民党の裏金問題やフジテレビの性加害事件を分析しました。そこでは、放送局、広告主、株主、そして報道機関が、世論の圧力のもとでどのように「責任」を交渉するかを明らかにしています。

これらの研究を通じて私が一貫して主張しているのは、「日本のスキャンダルは世俗的な儀式として機能している」ということです。スキャンダルは、社会的制裁を与え、汚名を清め、制度を再び安定させる役割を果たしています。そして同時に、スキャンダルは自然発生的な現象ではなく、メディアの論理によって「作り出され」「拡大され」「時に抑圧される」ものでもあります。

もう一つの研究の柱は、日本の政治コミュニケーションです。政治家、政党、テレビ、新聞といったプレイヤーがどのように相互作用し、アクセスや報道枠を取引しながら物語を形成しているのか、そしてスキャンダルがそのシステムの内部でどのように「武器」として使われるのかを研究しています。

この分野では、
①不正資金や汚職ネットワークに関わる政治スキャンダルの仕組み、
②日本におけるデジタルメディアと政治マーケティングの実態、
③報道機関、官僚機構、政党政治が交錯する「メディア=政治複合体(メディオポリティカル・コンプレックス)」や「記者クラブ文化」と呼ばれる空間の分析などを行っています。

これらは、日本のジャーナリズム、官僚制、政党政治がどのように「何を公にするか」を共同で管理しているかを探る研究でもあります。

私の研究は、単なる記述ではなく、批判的な視点を持っています。特に「誰が晒され、誰が守られ、なぜそうなるのか」という「説明責任」の問題に焦点を当てています。

私が一貫して重視しているのは、日本の「公的コミュニケーション」を「儀式」や「パフォーマンス」として捉えることです。そこには、謝罪会見の演出、頭を下げる角度、涙、辞任、そして演じられた後悔の表情といった一連の所作が含まれます。私はそれらを単なるPR戦略ではなく、「怒りを鎮め、社会的秩序を回復するための文化的に理解可能な儀式」として読み解いています。

重要なのは、私の研究が翻訳資料や二次報道だけに基づいていないという点です。日本のメディア、政治家、芸能人、そして制度が「圧力のもとで実際にどう振る舞うのか」を、日本語で、リアルタイムで観察することに基づいているのです。

著書 : “Scandal in Japan”

―― 今後の研究ビジョンについて教えてください。

これまでの研究の積み重ねを踏まえ、私の今後の研究は四つの方向に自然に広がっていくと考えています。いずれもすでに私の論文、講演、授業などで展開している内容であり、単なる構想ではなく、現在の研究の延長線上にある「次のステップ」です。


1. 日本における制度的アカウンタビリティ:儀式としてのスキャンダルから、圧力としてのスキャンダルへ

これまでの研究では、日本においてスキャンダルが一種の儀式として機能していることを明らかにしてきました。不正が物語化され、罪が演出され、謝罪が儀式化され、そして最小限の構造変化で社会が再び均衡に戻るというパターンです。今後の方向性としては、その儀式が「崩れる」瞬間を追うことにあります。

長期的な目標は、日本におけるスキャンダルが「儀式的スペクタクル」から「実際の改革を促す圧力」に変わる条件を明らかにすることです。つまり、スキャンダルを単に描写するのではなく、それを「現代日本における説明責任のメカニズム」として理論化する方向へ進むということです。

具体的には、①政治資金スキャンダル、②メディア・芸能業界のハラスメント問題、③企業や政治家がそうした危機をどのように生き延びようとするのか、を継続的に追跡します。


2. 被害者性の演出と「堕ちた英雄」ナラティブ

私はすでに、政治家や公人がスキャンダルの中で自らを「迫害された英雄」「陰謀の犠牲者」「魔女狩りの標的」として再構築し、自身の苦しみを「徳の証」として演出する現象について論文を発表しています。これを私は「被害者性の感情的構築」と呼び、現代政治における「堕ちた英雄」物語として位置づけています。

また、私は「反英雄」という概念にも注目しており、公人が悪人ではなく「カリスマ的な越境者」として再定義される過程を分析しています。スキャンダル、カリスマ、苦悩がどのように絡み合うのかというテーマについては、国際学会でも発表を行っています。


3. メディア環境の変化 ― 記者クラブからプラットフォーム空間へ

日本のメディア、政治、ビジネスが複雑に絡み合う構造、いわゆる「メディア=政治複合体(mediopolitical complex)」を研究しています。そこでは、アクセスの管理、情報リークの慣行、怒りの演出、そしてテレビや新聞上でのスキャンダルの「演技」が日常的に行われています。

また、政治コミュニケーションやデジタルメディアをテーマとした講義を行い、ウィーン大学では「日本におけるスキャンダル」を教えています。これはもはや一つの研究テーマにとどまらず、私の教育活動の中心的アイデンティティの一部になりつつあります。

この研究領域は、東京の日本外国特派員協会(FCCJ)での講演をはじめ、ケンブリッジ大学、チューリッヒ大学、トロント大学など欧米の学会での発表にも直結しています。


4. 文化産業・ジェンダー・ハーム(被害)の構造

私の研究業績では、スキャンダル分析とともに、セレブリティ文化、アイドル産業、そして日本のポップカルチャーにおける「かわいさ(kawaii)」や従順さ、魅力の管理を結びつけています。かわいさを「権力の一形態」として捉えたり、芸能人の失墜を「道徳的劇場」として読み解いたりする研究も発表しています。

最近では、ジェンダーに基づく脆弱性とメディア機関内での被害の可視化に関心を広げています。特に、放送局、芸能事務所、政治機構内でのハラスメントや性的搾取がもはや「内部処理すべき問題」ではなく、「企業の正統性や投資価値を揺るがす構造的リスク」として扱われ始めている現状を分析しています(2024年のフジテレビ性加害事件のケーススタディを参照)。

今後の研究では、①女性がメディア産業の中でどのように位置づけられ、美化され、利用されているのか、②どのような形で被害にさらされているのか、③その被害がスキャンダルを通じてどのように可視化されるのか、④そして制度がその被害を「儀式的に清算」しながら、構造的な問題を認めずに済ませているのかを検証していきます。

私の目指すものは「日本研究の拡大」ではありません。焦点は、日本の現代社会において、権力がどのように「説明責任」を演じ、どのようにそれを回避し、自らを被害者として語り、そしてその演技がもはや国内に閉じ込められなくなっているのかを明らかにすることです。

それが、私の次の研究プログラムの中核です。

――今後、どのような分野の人たちとつながりたいと考えていますか?

はい。以下の様な方々との繋がりは有り難いと考えます。

1. 日本のメディア/報道関係者

私の研究テーマは、日本におけるスキャンダルがどのように演出され、制御され、リークされ、そして儀式化されるかという点にあります。そのため、まさにその現場にいる人たちと関わることが不可欠です。具体的には、

▪️ 政治・企業不祥事・芸能事務所などを取材するテレビや新聞の記者、
▪️ 性的ハラスメント、資金問題、芸能スキャンダルなどをいち早く報じる週刊誌・タブロイド紙の記者、▪️ 日本のスキャンダルを世界へ伝える役割を担う京駐在の海外特派員
とのネットワークを広げていきたいと考えています。

2. 政治コミュニケーション/ガバナンス研究者

私は現在、「スキャンダルを日本社会の統治や説明責任のツールとして捉える」という方向に進んでいます。そのため、以下のような研究者との対話が重要になります。

▪️ 政党資金や派閥競争、資金スキャンダルの処理過程を分析する日本の政治コミュニケーションや汚職研究の専門家
▪️ 企業統治、株主アクティビズム、第三者委員会などを扱う日本の企業ガバナンスやコンプライアンス研究者
▪️ メディア、官僚制、政党が交差する権力構造を観察する政治学者や社会学者

と連携し、日本の制度的責任のあり方を立体的に捉えたいと考えています。

3. ジェンダー労働/ハラスメントの説明責任に関わる人々

近年の研究では、メディア機関における**構造的な被害(性的暴力、パワハラ、芸能事務所による支配など)**に焦点を当てています。これはメディア研究を超えて、労働とジェンダー権力の問題そのものです。そのため、

▪️ 職場でのハラスメント・性暴力事件を扱う弁護士や法的支援者
▪️ 女性の権利・職場平等を推進するNGOやジェンダーに関する研究者
▪️ アイドルシステム、かわいい文化、女性アナウンサー文化などを研究する日本のポピュラーカルチャーとジェンダー表象の専門家

との協働を目指しています。

最終的には、日本のメディア内部の人々+ジェンダー的被害の専門家+企業統治の研究者をつなぐことで、日本社会の中で信頼を築きつつ、海外でも理論的な発信力を持ち、「文化」ではなく説明責任と権力構造をめぐる国際的な議論に貢献していきたいと考えています。

プロフィール

イゴール・プルサ(1979年生まれ)は、チェコ出身の日本研究およびメディア研究の学者であり、現在はプラハのアンビス大学とメトロポリタン大学に所属。チェコ科学アカデミーで勤務し、ウィーン大学、チューリッヒ大学、東京都立大学でも教鞭を執った。2010年にプラハ・カレル大学でメディア研究の最初の博士号を取得し、2017年に東京大学で二つ目の博士論文を提出し、博士号を取得した。研究関心は、日本の文化と社会、メディア・スキャンダル、大衆フィクションにおけるアンチヒーロー主義に及ぶ。研究成果は『Media, Culture & Society』や『Japan Focus』をはじめとする多くの学術誌に掲載されている。初の著書『Scandal in Japan: Transgression, Performance and Ritual』は、2024年にラウトレッジ社から刊行された。学術活動のほかに、日本をテーマにしたバンド「Nantokanaru」でギタリスト兼作曲家としても活動中。

国籍 : Czech(チェコ共和国)
ホームタウン : Brno
大学 : プラハ首都大学

▼ Website
https://www.mup.cz/en

▼LinkedIN:
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